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イギリス史や英語英文学に関連する本を中心に、古い本から新しい本まで、いろいろ紹介します。
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2019/11/22 (Fri)
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2012/02/17 (Fri)
Laurence Twine, The Patterne of Painefull Aduentures: Containing the most excellent, pleasant and variable Historie of teh strange accidents that befell vnto Prince Apollonius, teh Lady Lucina his wife, and Tharsia his daughter. Wherein the vncertaintie of this world, and the fickle state of mans life are liuely described (New York: Elston Press, 1903).

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前回は、ウィリアム・モリスの作った個人印刷所Kelmscott Press で印刷された『ベーオウルフ』の現代英語訳のことを紹介したが、今回紹介する本もまた、個人印刷所で作られたものである。Elston Pressというこの印刷所は、アメリカで最高の品質の本を印刷・出版したとされ、そのため、アメリカで最も重要な個人印刷所であると言う人もいる。
 
この印刷所は、Kelmscott Pressに大きく影響を受けて、Clark Conwell という人が1900年に作ったもので、1904年までの間に24冊の本を印刷・出版した。そのうち、最初の1冊を含め、全部で5冊がウィリアム・モリスによる本であるということにも、モリスからの影響の強さがうかがわれる(これに次いで多いのは、ミルトンの2冊)。
 
さて、今回紹介するのは、この Elston Press で1903年に170部だけ印刷された、Laurence TwineによるThe Patterne of Painefull Aduentures という本。作品自体は、もともと1594年頃に出版されたもので、この本のタイトルにも見てとれるように、Elston版では、綴りから言葉遣いまで、16世紀末当時のものがそのまま使われている。黒と赤の二色刷りだが、装飾やさし絵等は一切入っておらず、Kelmscott Press の印刷物に比べるとかなりシンプルである。
 
著者Laurence Twineは無名の作家で、例えば、研究社の『英米文学辞典』(第3版)にも、Wikipedia(英語版)にも、見出しとしては取り上げられていない。少し古いが、1650ページ以上もあり、古英語期から近代までかなり細かく扱われている、A. C. Baugh編集の A Literary History of England (London: Routledge and Kegan Paul, 1950) でも彼は全く取り上げられていない。
 
そのような無名の作家にもかかわらず、今日まで彼の名が知られ、あるいは20世紀初頭に Elston Press で彼の作品が印刷されたのは、ひとえにシェイクスピアのおかげと言える。というのも、この作品はシェイクスピアの『ペリクリーズ』(Pericles)のソースのうちの一つなのである。
 
とはいえ、この話はTwineのオリジナルではない。この話は、6世紀以来、まずラテン語で書かれ、続いてヨーロッパの多くの言語に翻訳された「タイアのアポロニウス」(Apollonius of Tyre)の話に基づくものである。イギリスでも、古英語期の11世紀中頃までには既に翻訳されていた(Old English Apollonius of Tyre)。 中英語期にも複数のヴァージョンが記録されている。そのうちの一つは、ジョン・ガワー(John Gower)の『恋する男の告解』(Confessio Amantis)の第8巻に含まれており、これが『ペリクリーズ』のもう一つのソースとなっている。
 
話の内容は、タイアの王アポロニウスが、運命に翻弄され、大変な目に遭ったり、そこから救われたり、また大変な目に遭っては救われたり、というような具合で、運命的な人生の浮き沈みが一つのテーマと言えそうである。アポロニウスは、航海中の嵐で難破し、無一文になったが、学識豊かで技芸に秀でた彼は、漂着した国の王に気に入られ、その娘と結婚し幸せになる。娘も一人もうけるが、また航海中の嵐が原因で、一家離散状態となる。失意のうちに船に乗り放浪していると、運命が好転し、娘と再会し、さらには妻とも再会し、めでたしめでたし、というのが大まかな話の流れ。
 
シェイクスピア以前まで、主人公の名はアポロニウス(あるいはアポリン等)であったが、この名がシェイクスピアの使った韻律に適さないということで、彼はこれをペリクリーズに変更した。一説によると、ラテン語の単語 periculum「危険」を連想させる名前で、彼が何度も危険な目に遭うことにちなむとも言われているが、真偽のほどは定かでない。
 
いずれにしろ、今回紹介したElston版は、中世初期以来読み継がれてきたアポロニウスの話には、近代になってもなお色褪せない何らかの魅力があったということを示すものと言えそうである。『ペリクリーズ』を書くに際し、恐らくシェイクスピアもその魅力を感じ取っていたのだろう。そして、『ペリクリーズ』によって、アポロニウスの話の地位は現在に至るまで不動のものとなったと言える。古代から中世にかけて書かれたこの種のロマンスで、多くの言語に翻訳され、広く読まれた作品は他にもあるが、現在に至るまで楽しまれ続けている作品は他にはあまりないのである。

 





 
 
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中世英語英文学や英語史を専門とし、駒澤大学文学部で教えています。さらに詳しくは、ホームページをご覧ください。
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